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超幾何・合流型超幾何微分方程式 共立出版株式会社(1998)
まえがき
超幾何微分方程式および合流型超幾何微分方程式の理論は18世紀から19世紀にかけて後世に名を残した卓越した数学者達オイラー、ルジャンドル、ガウス、ベッセル、クンマー、フックス、ラゲールらによって完成された最も美しい理論の1つである。また、2階線形常微分方程式の範囲内で解が全複素平面上で解析的に表現できる場合の大部分が超幾何・合流型長幾何微分方程式に関連して完成され、それらは特殊関数として現在も数学的理論のみならず応用上からも重要な役割を果たしている。20 世紀に入り現代物理学の基礎理論である量子力学が現れた時期、水素原子の波動関数がルジャンドルおよびラゲールの多項式で書き表されたということは感動的なことであったに違いない。
本書では、これらの理論を具体的な計算により出来るだけ分かり易く解説することを目的としている。読者としては微分積分学を習得した大学2年生以上の学生を想定している。したがって、理論を理解するうえで必要と思われる1変数複素関数論を第1章において、また複素平面上での特異点をもつ2階線形常微分方程式の基礎理論を第2章において述べた。
第3章から第6章までが本論である。第3章において超幾何微分方程式の解の構成と解析接続について述べ、第4章では合流型超幾何微分方程式の解の構成とその漸近展開について説明する。第5章では量子力学の原理に基づき水素原子の波動方程式を解くことにより、水素原子の量子化と波動関数がルジャンドルの多項式とラゲールの多項式によって記述されることを示す。第6章では特殊関数の中で最も応用が広いベッセル関数について解説する。
第7章では第3章から第6章の記述の中でしばしば引用するガンマ関数に関する主な公式をまとめて証明する。
以下、各章毎の内容を簡単に記す。
第1章 複素関数
この章では1変数複素関数論の概要を述べる。第2章以降で解説する2階線形常微分方程式の理論にとって必要な事柄、例えば正則関数、複素積分、解析接続そして留数定理などについて説明する。
第2章 2階線形常微分方程式
ここでは複素平面上における2階線形常微分方程式の解についての基本的な事柄を説明する。微分方程式の確定特異点と不確定特異点、フックス型微分方程式、超幾何微分方程式およびリーマンのP-関数などの概念を導入する。
第3章 超幾何微分方程式
この章では、まず超幾何微分方程式の特異点z=0,1,∞ のそれぞれの近傍における基本解を構成する。特にz=0の近傍での1つの解として超幾何級数を定義する。ついで、この超幾何級数を解析接続したとき、z=1およびz=∞の近傍で定義されている基本解の線形結合で表すこと、つなわち複素平面上における線形常微分方程式の中心的課題である接続問題を取り上げる。ここでは、メリン・バーネス積分の留数計算による方法と、オイラー積分による方法を紹介する。水素原子の波動関数の表現に必要なルジャンドル関数についても説明する。
第4章 合流型超幾何微分方程式
確定特異点を3つ持つ2階線形常微分方程式は独立変数zの1次分数変換により任意の点に移すことが出来る。特に標準形として{0,1,∞}にとった方程式が超幾何微分方程式であった。この3点の中の2点{1,∞}を1つの特異点∞に合流させることによって合流型超幾何微分方程式が得られる。このときz=∞はもはや確定特異点ではなくて不確定特異点となる。本章ではこの方程式の1つの解である合流型超幾何関数の基本的な性質と、zが不確定特異点∞に近づくときの漸近展開などについて説明する。また、ホイッテーカーの関数、ラゲールの関数についても述べる。
第5章 量子力学への応用
本章では超幾何関数および合流型超幾何関数の理論の応用として、原子核と1個の電子からなる最も簡単な系である水素原子の量子力学的な取り扱いとその波動関数について述べる。水素原子に対するシュレーディンガーの波動方程式を変数分離の方法で解を求め、量子力学の基本原理から波動関数はラゲールとルジャンドルの多項式であらわされることが結論される。水素原子の波動関数の特徴について簡単に述べる。
第6章 ベッセル関数
ベッセル関数はおおくの特殊関数のなかでも重要な関数であり、ことに工学の分野で幅広く応用されてきた。ベッセル関数は合流型超幾何微分方程式に帰着されるベッセルの微分方程式の解として定義される。ここではベッセル関数の基本的な性質を合流型超幾何関数の積分表示から導く。
第7章 ガンマ関数
ガンマ関数Γ(z+1)は自然数nに関するn!を任意の複素数zにまで一般化したものと考えられ、いろいろな関数の解析表現にはなくてはならない特殊関数である。本書においては第3章の超幾何関数、第4章の合流型超幾何関数、および第6章のベッセル関数の研究の中でしばしば用いている。そこで本章では、ガンマ関数の基本的な性質と公式をまとめて述べる。ガンマ関数に関するスターリングの漸近公式を鞍部点法を用いて証明する。
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